ビジョン2025 ~神様はどのように用い、導いてくださったか~

松丸嘉也(総主事)

 2025年は聖書翻訳宣教に携わるウィクリフとそのパートナー団体にとって、大きな節目の年でした。1999年に国際ウィクリフ(当時)と国際SIL(同)が採択した『Vision(ビジョン)2025』の目標の年を迎えたからです。ビジョン2025は次のようにまとめることができます。

わたしたちは、2025年までに世界中のパートナーと共に聖書翻訳を必要とする 全ての言語においてプロジェクトを始めることを目指します。

 私は、奇しくも今年10月にタイで開かれた聖書翻訳会議(Bible Translation Conference)に参加し、当時このビジョン採択の中心となったリーダー達と交わる機会が与えられました。その一人であるF. ボズウェルは会議最終日の講演で、J. ワッターズの聖書翻訳宣教への情熱と共にこの世代のうちに(つまり、次の世代へのバトンタッチも見据えて)という重要性と緊急性に応えるためにこのビジョンを共有したことを証ししました。このことが真剣に議論されていた1999年に聖書翻訳が開始されたプロジェクト数は25で、それまでの最高数に達していました。しかし、この最高値をもってしても、聖書翻訳が必要とされる全ての言語のプロジェクトを始めるだけでも150年以上かかるという計算がなされました。しかし、「主は、それを良しとするのか?」という大きな迫りがあったのだと理解しています。25年という年月は、働き人の世代の1サイクルに相当すると考えられます。当時の奉仕者世代が直接対峙していた聖書翻訳の緊急性に応えるためにも2025年が目標の年に設定されました。

 このビジョンが、私たちの能力や実績をはるかに超えていることは明白でした。ビジョン2025は団体としてのウィクリフや各宣教師たちの願いではなく、神からのチャレンジとして受け止め、主に信頼して委ねるという決意を促すものでした。ビジョンの中にある「世界中のパートナーと共に」は、ウィクリフだけでなく、他の宣教団体、世界中の教会・クリスチャンが参加し協力することを明確にしています。また、全ての言語の聖書翻訳を完成させることではなく「プロジェクトを始めることを目指」すということも非常に示唆に富んでいると言わざるを得ません。それは単に総言語数が多いからという訳ではありません。翻訳聖書の完成は宣教のゴールではなく、スタートラインに他ならないからです。翻訳されたみことばを人々が読み、聴き、見ることによって、初めて神のことばが届けられます。人々がみことばによって養われ、救われ、整えられ、教会が建て上げられて行くこと、みことばが人々の毎日の歩みに生かされて行く事こそが大切なのです。さらに、このビジョンは達成しなければならない「ノルマ」ではなく、神様はどのように私たちを用いて働きを導いてくださるか、いやむしろ神様はご自身の宣教のわざ(Missio Dei)をどのように進めて下さるのかという「神への信頼と献身」の決意表明であったという事を覚えるのです。

 『ビジョン2025』を受けて、聖書翻訳宣教はどう進んで来たのでしょうか?ビジョン採択当時と今年8月の統計(世界ウィクリフ同盟発表)を比較してみましょう。

 もちろん上記の数字はこの25年間だけの成果ではなく、それ以前から続く数十年に及ぶ働きと祈りと支援の実であることも見落としてはなりません。聖書翻訳に関わるあらゆる働きが組み合わされ用いられてきた証しでもあります。また、ウィクリフとパートナー団体の組織の変革や、現地における聖書翻訳団体や教会・クリスチャンの参加とそれぞれの協力など、聖書翻訳宣教の拡がりがかつてない程の規模で続いています。IT技術の進歩もあります。

 日本ウィクリフが直接翻訳に関わって来た少なくとも14言語の聖書(新約・旧約新約)のうち、大半がこの25年間に完成、人々に届けられて来ました。中にはプロジェクトが継続・発展、あるいは再始動するものもあります。日本ウィクリフが日本の教会の献身と尊い祈りと支援によって、この大きな神様の働きに加えられ用いられてきていることの恵みと祝福を改めて覚えます。共に歩んでくださる全ての教会と兄弟姉妹の皆さまに改めて感謝します。そして何よりも、この働きに招き導いてくださる主の御名をあがめます。

『聖書ほんやく』No.277 2025年12月1日発行 掲載記事