ビジョン2025に向けてラストスパート

兼次宏枝(広報担当主事)

 「すごいニュースです!」日本ウィクリフの同僚が、興奮気味に伝えてくれたのは、45年以上の年月を経て、新約聖書の翻訳が完成し、今印刷の工程に入ったというプロジェクトのことでした。パプアニューギニアのウリム語地域で、長らく一人で働いていたフィンランド人のP宣教師は、現場を離れ母国で療養の年月を過ごしていましたが、不在の間にプロジェクトを助ける人が起こされ、地元の翻訳者たちは働きを続けていました。もともと病弱だったP宣教師が弱気になって「自分が生きている間に完成は無理かも」と言うと、一緒に働いてきた地元の翻訳者のひとりがいつも「僕はきっと大丈夫だと思うよ」と励ましてくれていたというのです。そんな話を聞きながら、私はあらためて 、ひとつの言語に聖書が訳されるその裏に、みことばを待ち望む言語グループの人々、プロジェクトに携わる働き人たち、世界中の教会と一人ひとりのクリスチャンの祈りと涙、そして何より主のあわれみとみわざがあることを思い、その壮大さと重みを感じました。 

 2003年2023年 
聖書全巻ある:405言語736言語+331
新約聖書はある:1,034言語1,654言語+620
分冊はある:864言語1,264言語+400
翻訳を始める必要がある:2,737言語1,268言語-1,469

 2003年と2023年に発表された聖書翻訳状況を比べると上のようになります。

 この20年余り、聖書翻訳の働きはすごい勢いで前進し、その勢いは、ここ3年、かつてないほどになっています。特に2022-2023年は、アジアやアフリカ地域を中心に聖書翻訳の働きが大きく進展し、新しく356言語でプロジェクトが始まりました。また、アジアでは聖書翻訳プロジェクトを始める必要のある言語数が2020年には836言語だったのに対し、2023年にはおよそ半分の435言語になりました。(右図:翻訳を始める必要がある言語分布2023/9発表)

 そして今、聖書翻訳の働きは、様々な分野のテクノロジー、働き人、世界中の教会と一人ひとりのクリスチャン、 そしてそれらすべてとの繋がりを備えてくださる神さまによって、さらに加速して進んでいます。

 かつて日本ウィクリフの宣教師が携わったプロジェクトで、冒頭に記したウリム語プロジェクトと同じパプアニューギニアで80年代に始まり、ほぼ同じくらいの年月を経て完成した新約聖書の献呈式が今年行われます。メラメラ語新約聖書(4月)とウアレ語新約聖書(9月)です。「ついに!」と喜ぶ一方で、「いつまでですか?」と、みことばが自分の母語に訳されるのを待ち続けている人々がまだ多くいることを覚えます。下の図にある1,268言語を話す約1億人の人たちは、聖書が自分の母語に訳されるところさえ、まだ目にしていないのです。

 ビジョン2025(2025年までに、聖書翻訳を必要としているすべての言語においてプロジェクトがスタートしているという目標)の設定年まであと9か月弱。初めにこの目標が掲げられた時には、人の力では絶対に無理だと思っていました。今でもそれは変わりません。けれども、神さまは過去20年以上にわたり、私たちの想像をはるかに超えることをすでに成し遂げてくださっています。ますます主に信頼し、さらに大きなみわざを主が成してくださることに期待して、みなさまと共に祈りつつ、励み続けることができれば幸いです。

≪お祈りください≫

 いまだ、第一言語(母語)でみことばを味わうことができない人たちに、ふさわしい形でみことばが届くように。

『聖書ほんやく』No.272 2024年4月1日発行掲載記事