メラメラ語聖書翻訳プロジェクト

ホァン・ジョンキー&ソンへ―(韓国ウィクリフ宣教師)

茶色がメラメラ語地域(左上赤い四角で囲われているところの拡大図
 メラメラ語族(2022年の選挙データから総勢約7,000人と推定)は、パプアニューギニアのニューブリテン島の北岸、西ニューブリテン州と東ニューブリテン州の州境をはさんで、西端はウビリ村、東端はオープンベイを越えおよそ10キロほどまでの地域とロロバオ島に住んでいます(下地図参照)。伝統的には自給自足の農民、狩猟民、漁民として暮らしてきましたが、ここ数十年は、ほとんどの村人が木材産業やアブラヤシ農園で働いたり、自分たちの畑でとれた果物を会社に売ったり、雑用をしたりして収入を得ています。

 メラメラ語聖書翻訳プロジェクトは、1988年に日本ウィクリフの大鍔秀樹・正枝夫妻が4人(1988年時点では2人、その後さらに2人与えられた)の子どもを連れてこの地域に来たことから始まりましたが、2001年に大鍔夫妻がパプアニューギニアを離れて以来、約10年間は働きが止まった状態になっていました。そのため、私たちが2011年7月の事前調査で初めて訪問した際も歓迎され、教会から聖書翻訳に協力する人たちが何人か派遣されました。また、クリス・ウビアレ氏は、前任の大鍔宣教師から購入した家を、メラメラ語聖書翻訳プロジェクトのために無償で寄付してくれることを約束してくれました。新約聖書の初稿をはじめ、100篇以上の聖書物語、文法に関する論文、正書法*、翻訳作業のための識字教材などを大鍔さんがたくさん残してくださっていたため、メラメラ語の勉強をしながら、村に最初に派遣されてから1年以内に、翻訳作業をスタートさせることができました。

翻訳作業の様子:左からクレメント・メレコ、マイケル・ガブ、マーティン・タウモシ、サミュエル・テイガ、一番手前がホァン師

 しかし、熱帯雨林の暑い気候の中で初稿をチェックし、再翻訳するのは容易なことではありませんでした。私たち翻訳チームは、炎天下を避け、支障なく翻訳作業に集中できる適切な場所を求めて、あちこちに移動しなければなりませんでした。教会の会堂や教会員全員が入れる教会の食堂、学校の空き教室、家の階下や庭の東屋などがその場所として適していました。しかし、夜間は発電機やソーラーパネルで電気や扇風機を使える私の家に集まることがほとんどでした。ありがたいことに、マイケル・ガブ、クレメント・メレコ、マーティン・タウモシ、サミュエル・テイガ、そして以前小学校の校長だったオーガスティン・テイガが定期的に翻訳作業に参加し、これまで忠実に働いてくれていました。その結果、まずマルコの福音書を再翻訳し、コンサルタントにチェックしてもらい、2014年にメラメラ語の正式な聖書として、マルコの福音書を献書することができました。メラメラ語話者の人々が一同に会し、自分たちの言葉で書かれた最初の聖書を手に入れることができたことを祝いました。400部印刷したのですが、その日のうちに完売し、さらに、多くの方から次の出版物のためにたくさんの寄付が献げられました。また、これまで翻訳チームの母語翻訳者たちの旅費のほとんどは、現地の教会から提供され、翻訳プロジェクトを共に支えようと協力してくれています。

製版作業終了時点でのメラメラ語新約聖書の一部

 私たちメラメラ語翻訳チームは、過去10年以上にわたる努力の結果、メラメラ語新約聖書全体の再翻訳とコンサルタントチェックを終え、基本文法の原稿も書き上げることができました。そして昨年2022年に、出版するための組版も終え、現在は、韓国へ印刷に出す前の最後の工程である審査会を行おうとしているところです。今、メラメラの人々も私たちも、自分たちの言葉で書かれた神様の言葉をもうすぐ手にすることができると思うと、ワクワクし、楽しみでなりません。

 この12年間、聖書をメラメラ語に翻訳している間に、多くの村人たちが天に召されていきました。家をプレゼントしてくれたクリス・ウビアレ、40代で舌癌で亡くなったルーカス・ガマム、信徒伝道師だったマティアス・ガブリ、お隣さんとして私たち家族を守ってくれたサムエル・マオ、教会の長老で、早く仕事を進めるように私に発破をかけてくれたグラハム・パウル、この他にも多くの人が聖書を手にする前に召されているのです。ですから私たちは、人々が、生きているうちに一刻も早く神の言葉を手にし、聖書を通して闇から光に入り、死の道から命の道を歩むことができるようにと祈っているのです。

村の最寄のスーレ飛行場。ここから徒歩で村へ行く

*文字を正しく書き表すためのルール




✢メラメラ語聖書翻訳プロジェクトの経緯✢

大鍔ファミリー(1998年当時。ウカルンパセンターで)
 1986年、日本ウィクリフの大鍔宣教師夫妻が、2人の子どもを連れ家族4人でパプアニューギニアに派遣。1988年、メラメラ語聖書翻訳プロジェクトをスタート。 その後、さらに2人の子どもが与えられ、家族6人で2001年まで同プロジェクトに携わる。

 2012年からホァン宣教師家族に引き継がれ、プロジェクトが再開、今日に至る。

ホァン夫妻(メラメラビーチにて)









『聖書ほんやく』No.269 2023年4月発行 掲載記事