絵画を用いた聖書活用

 聖書翻訳宣教の中に、聖書活用という働きがあります。聖書翻訳宣教に関わる私たちの願いは、母語聖書が人々に読まれ、み言葉によって人々の生き方が変えられることです。私の奉仕国では、聖書翻訳プロジェクトチームとその民族の教会やクリスチャンたちが協力して、母語聖書が用いられるためのさまざまな取り組みをしています。具体的には、母語の録音聖書を聞く会、暗唱聖句&聖書クイズ大会、聖書のみ言葉をもとにした母語賛美歌の創作、メディア(動画配信サービス等)を用いた母語のメッセージの配信、聖書画の創作、識字クラスや聖書の学び会などです。

 今回はその中で、絵を用いた聖書活用について紹介します。今年1月、聖書画を描く働きをしているグループに、エスノアーツ(民族芸術・芸能)トレーニングを行いました。トレーニングでは、聖書から、民族特有の芸術表現を聖書活用に適切に用いることについて共に学び、考えました。

 出エジプト記31:1-6に、神様は天幕造りのためにベツァルエルを選び、その働きに必要な賜物を与えてくださった記事があります。また第1コリント12:11には、御霊によって私たち一人ひとりに賜物が与えられているとあります。この2つの聖書箇所を学んだ後に、参加者の一人が「この国に住む自分の民族に聖書を伝えるため、自分には御霊によって絵を描く賜物が与えられている」ことを絵で表現しました(写真左)。

 右の3枚の絵は、仏教を篤く信仰する自分たちの民族に伝えることを想定して、3人の参加者が描いた新約聖書の「良きサマリヤ人」(ルカ10:25-37)の教えです。左と中央の絵は、人々に馴染みがある仏教画のスタイルが取り入れられています。右の絵は、その民族の家で使われているカーペットをモチーフにして、その模様の中に良きサマリヤ人のたとえ話が描いてあります。どの絵も、背景や人物などがそれぞれの民族に馴染みがあるものに置き換えられています。実際にこの聖書画を用いて人々に聖書を伝えるためには、見る人が絵に描かれていることを理解できるか、分かりにくいところはないか、絵で表現しようとしている事が正しい聖書理解に基づいているか、などのチェックが必要です。

 聖書画を描く働きをしているグループは、仏教を信仰する民族の言語に聖書翻訳をしているチームと一緒に、絵を用いた聖書活用のプロジェクトを進めています。翻訳チームがルカの福音書を翻訳するのと並行して、絵を描くグループは翻訳チームと話し合いながら、翻訳した箇所の絵を描いています。下のスケッチはルカの福音書10:1-16を描いたものです。山岳地帯に住み仏教を信仰する人が多い民族に、聖書の神が自分たち民族の中にもいてくださる神でもあることを知ってもらうために、背景には山並が描かれ、ユニークな形状の雲や、円の中に対象物を描くなど、人々が慣れ親しむ仏教画のスタイルが取り入れられています。

 民族特有のスタイルで描かれた聖書画を用いて、村の人々に聖書を伝えた事のある方が、「絵を見せながら話すと、人々が関心を持って話に耳を傾けてくれる」と、証しをしてくれたことがあります。民族特有のスタイルで描かれた絵は、福音を知らない人々に母語聖書を伝える架け橋になっています 。

『聖書ほんやく』No.263 2021年4月1日発行 掲載記事