聖書翻訳宣教の目指すもの ~世界の聖書翻訳状況を通して~

 2020年10月、世界ウィクリフ同盟から世界の聖書翻訳状況(手話言語も含む)の新たな統計が発表されました。

 聖書全巻がある   704語  

 新約聖書はある 1,551語  

 分冊・聖書物語はある 1,160語  

 翻訳プロジェクトが進行中 2,731語  

 翻訳プロジェクトを始める必要がある 2,014語


縦軸は、現在話されている言語で聖書全巻あるもの
横軸は、初版出版年
 聖書全巻が翻訳されている言語数は、遂に700を超え、704言語になりました。聖書全巻がある言語数は、1990年ごろまでは緩やかに伸び、そこから現在に至るまでにほぼ2倍になっています。(右グラフ参照) 

 また、聖書全巻はなくても新約聖書はあるという言語、新約聖書全巻はなくても分冊は訳されている言語も合わせると3,415言語になり、この数字も21世紀に入ってから急速にのびてきています。

聖書翻訳プロジェクトを始める必要がある言語の分布
 一方で、聖書翻訳プロジェクトを始める必要がある言語数は、まだ2,014言語もあります。これらの言語を話す約 1億6700万の人々は、自分たちの母語でみことばを味わえるようになることを切実な思いで待ち続けているか、あるいは、神さまから自分たちに与えられている恵みがあることさえ知らずにいるのかもしれません。

 日本語には聖書全巻が翻訳されていますが、創世記から黙示録までのみことばを自分の母語で読んだり、聴いたり、味わうことのできない人々が、まだ世界には約15億人(6,656言語)もいます。分冊しかない、または新約聖書しかない言語においては聖書全巻翻訳に向けて働きを続けていく必要があり、たとえ、聖書全巻の翻訳が完成していたとしても、折々に改訂が必要なことは、近年、日本でもいくつかの新しい訳の聖書が出版されたことを考えれば容易に想像できることでしょう。

 世界中のすべての人がそれぞれの母語でみことばを味わえるようになる、その日までの道のりを思うとただただ圧倒されてしまいます。しかし、神さまが確実にそのみわざを進めてくださっていることは、毎年更新される統計の数字によっても知ることができます。そして、今この時もその数字は動いているのです。かつて日本ウィクリフの宣教師が奉仕していたフィリピン山岳州のバーリグでは、2004年にバーリグ語新約聖書が献書された後、母語翻訳者が旧約聖書の翻訳を続け、2020年現在、バーリグ語聖書(今年完訳した旧約聖書と新たに改訂された新約聖書)の印刷が最終段階に入っています。また、その隣の言語グループ、カダクランでは、40年間休止していたカダクラン語聖書翻訳プロジェクトが、この10月に再始動しました。

 統計の数字が更新されていくことは大きな励ましですが、訳された聖書が出版されることが私たちのゴールではありません。日本ウィクリフをはじめ世界ウィクリフ同盟が目指すのは、訳された聖書によって人々が神さまと出会い、救いの恵みに与り、みことばによって人々が、そして世界が変えられていくことです。そのために、これからも、主にある兄弟姉妹、地域教会、地域社会、パートナー団体と、この働きをともに担っていくことを願っています。

『聖書ほんやく』No.262 2020年12月発行 掲載記事