コロナ禍にあって ~みことばに励まされる聖書翻訳宣教~

 

松丸嘉也(総主事)


 「私たちは、地図のない旅に出ている。全世界が経験したことのない状況にあるからだ。」新型コロナウイルス感染拡大が懸念され始めた1月下旬、世界ウィクリフ同盟(WGA)のリーダーシップからは現在世界が直面している状況を見越すかのように、聖書翻訳宣教についての見通しと示唆が伝えられました。今回のパンデミックは、私たちの日々の生活や人生の計画にさえ、年初めには予想すらしなかった大きな影響を与え続けています。歴史的には、感染症の「世界的」流行は繰り返し起こり、今回の疫病の流行やアフリカにおけるバッタ大量発生と被害のニュースに、出エジプト記の出来事を思い起こしました。

このような中、「あなたがたが経験した試練はみな、人の知らないものではありません。神は真実な方です。あなたがたを耐えられない試練にあわせることはなさいません。…試練とともに脱出の道も備えていてくださいます。」(コリントⅠ10:13)のみことばを通して励まされ支えられてきたのは、私だけではないでしょう。

 今回の危機で私に迫ってきたのは「見よ、わたしは新しいことを行う。今、それが芽生えている。あなたがたは、それを知らないのか。必ず、私は荒野に道を、荒れ地に川を設ける。」(イザヤ43:19)とのみことばでした。心騒ぐ時にこそ「見よ、わたしは新しいことを行う」と神である主が呼びかけておられることを、改めて教えられています。

「強いられた恵み」として、私たちはこの厳しい現実に向き合い、日常生活の中で新しい方策を見つけ、実践してきました。けれども、それらの殆どは既に備えられていました。ウェブ会議やテレワークを一般的に可能にするコンピュータやインターネット技術の普及などは、その代表的な事柄です。また、献身的に働き続けておられる医療関係の方々や社会生活を維持するための働きをされている方々に心からの感謝と敬意を表わさずにはいられません。さらに、それぞれに大変な状況の中にあっても祈り、経済的にもご支援くださる教会や兄弟姉妹が共にこの宣教の業を担っていてくださることを深く感謝しています。

 私たちウィクリフも他の様々な働きと同様、大きな影響を受け、「試練」の中にあります。聖書翻訳の各プロセスにおいて広範囲に影響があります。宣教師が奉仕する現地では、医療体制のひっ迫や地域・国際間の移動制限、外出禁止命令などに直面しました。多くの宣教師(家族)がやむなく働きを中断し帰国したり、派遣予定の宣教師が赴任できないなど、働きの継続自体が困難な状況の所もあります。オンラインで行うことが事実上唯一の働きの手段であったりもします。宣教師の子どもたちの教育や生活にも大きな影響があります。WGA全体では予定されていた国際会議等が中止され、多くがオンライン会議に切り替わりました。日本ウィクリフでも今年2月以降、フィリピン宣教地体験旅行、ウィクリフ・カフェ、識字教育・エスノアーツセミナー、異文化宣教セミナーなどを中止せざるを得ませんでした。

 けれども、全てがマイナスなのではありません。「…荒野に道を、荒れ地に川を設ける」というみことば通りのことも経験させていただいています。最も顕著なことは、やはりインターネットでしょう。移動することなく、日本や海外にいる働き人と画面を通して一同に会することが、今や「日常」です。世界各地に散らばる働き人が数百人規模で参加する国際会議やセミナーも次々に開かれています。海外にいる宣教師が日本の礼拝や祈祷会に参加することや、私自身も数百キロ離れた場所での祈りの輪に参加することも特別な事ではありません。任地の宣教師の近況をリアルタイムで知り、祈るという機会も増えていて、メンバーケアの側面も含めて、宣教活動全体にとって大きな力となっています。先が見えず、地図がないような歩みの中で、私たちこそ主のみことばに励まされ、強められ、さらに先を目指すよう促されています。

「立ち返って落ち着いていれば、あなたがたは救われ、静かにして信頼すれば、あなたがたは力を得る。…主は、あなたがたに恵みを与えようとして待ち、…あわれみを与えようと立ち上がられる。…幸いなことよ、主を待ち望むすべての者は。」(イザヤ30:15,18) 

※聖書箇所の引用は『聖書新改訳2017』

※※『聖書ほんやく』No.261 2020年8月1日発行 掲載記事