ひとりぼっちじゃない


『聖書ほんやく』誌に掲載した子ども向けコーナー「ちょこっとミッション」の記事です。

ひとりぼっちじゃない

1996年、パプアニューギニアの村でのことです。
携帯電話もインターネットもまだなく、村には電気もありませんでした。それで私たちは太陽電池をも持ってい行き、パソコンとつなげて仕事をしたり、無線機※につなげて電話のかわりに使ったりしていました。ある日のこと、いっしょに働いていた仲間の腹がものすごく痛くなったので、私は無線で、おなじ宣教師仲間の看護師さんに相談しました。村の病院には薬もあまりなく、お医者さんもいませんでした。お医者さんのいる病院に行くには、何時間も歩いて飛行場に行き、小型飛行機に乗って町まで行くのですが、ちょうど雨の多い季節で、道が悪く、病人を運ぶことはむずかしくなっていました。私たちの持っている薬の中からどれを飲んだらよいかなどを教えてくれた後、看護師さんは「明日の朝5時にまた無線で話しましょう。」と言いました。無線は、お天気によって雑音がひどくなって、お互いの声が聞きとれないことがよくありました。夜中にもっと具合が悪くなって無線で助けをよんだとしても、雑音でそれが伝わらなかったらどうしよう。私は不安になりました。しかし、その時、別の宣教師の声が無線機から聞こえてきました。「今の話は聞いていた。今夜はずっと無線機の電源を切らないでおくから、何かあったらいつでも呼びなさい。」私たちの村から車で数時間行ったところで働いていて、食べ物の買い出しなどでいつも助けてくれていた仲間でした。その人のところには電話があるので、何かあったらそこから看護師さんに電話してもらえます。心細さがうそのように消えていきました。家の周りには話を聞きつけた村の人たちが集まってきていました。隣の家の人が壁ごしに話しかけてきました。家は簡単なつくりで壁がうすいので、中と外でふつうにおしゃべりができたのです。「神さまのこどもだ。良くなるよ。大丈夫。」などと、くりかえし慰めてくれました。その土地では重病の人をひとり一人にはしないという習慣があるので、ある人は「今夜はここに泊まる」と言い、こども4人をひきつれて一家で私たちの家にやってきました。
その夜、私のいる村から数百キロメートル離れたところで、看護師さんからの連絡を受けた仲間の宣教師たちは、あちこち連絡をとって村から飛行場まで病人を運ぶためのヘリコプターや、飛行場から病院のある町まで行く小型飛行機、受け入れてくれる病院への連絡もすべてやってくれていました。
おなじ夜、私たちのために夜中ずっと祈ってくれていた家族がいたことを後で知りました。たとえ遠く離れたところにいても、私たちはけっしてひとりぼっちではなかったのです。
パプアニューギニアでは今もいろいろな種類の仕事(パイロット、教師、看護師など)をする宣教師たちがチームとなって、すべての人がそれぞれ一番よくわかる言語で聖書を読み、毎日の生活の中でみことばを思い出し、神さまといっしょに歩くことができるようになることを願い働いています。

※無線機:電波を利用した通信機器で、特定の周波数を使って交信が行われていました。

(『聖書ほんやく』No.251 2017年4月号掲載)